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盡心章句下



十二




孟子曰、不信仁賢、則國空虚、無禮儀、則上下亂、無政事、則財用不足。

孟子は言う。
「君主が仁者や賢者を信任しなければ、国家は人材がいなくなって空虚になる。礼儀がなければ、上下の秩序が乱れる。政治を行わなくなれば、財政も不足するようになる。」

本章では政治の要として、仁者や賢者を信任することと礼儀を正すことの二点が挙げられている。儒家の主張するところでは、君主は特に何の実務を執る必要もない。堯も舜も、賢者を引きつけて信任することが君主の勤めであって、具体的な仕事は全て配下の者が行なっていた。君主は仁の心で仁者や賢者を引きつけて、後は上下の秩序を正すために礼儀をきちんと行なうことに専念するべきなのである。天下を飲み込むほどの超大国の君主像とでも言うべきであろうか。

この辺、片々たる一都市国家から成り上がったローマでは、中華社会とは少々違った「望まれる政治家像」があったようである。地中海を飲み込む大版図であるにも関わらず、「三世紀の危機」の時代の皇帝たちは、配下の兵隊から武勇の英雄として見られて人気を得ようとした。アレクサンダー・セウェルス(Alexander Severus 本名 Marcus Aurelius Severus Alexandrus, 在位 222 - 235)は、兵士の給与を切り下げた上に侵入した蛮族と和睦しようとした軟弱さによって彼らの憤激を買って殺された。その後に軍隊によって皇帝に推戴されたのは一兵卒上がりのマクシミヌス・トラクス(Maximinus Thrax 本名 Gaius Julius Verus Maximinus, 在位 235 - 238)であったが、彼が軍隊で人気を得たのはその怪力と途方もない大食らいのためであったという。ちょっと中華帝国ではトップになれそうもない人物である。もっとも即位後しばらくしてやはり兵士たちによって殺されたのであるが。彼は首都ローマに入城する前に果てたのであった。


(2006.04.04)



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