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盡心章句上



十六




孟子曰、舜之居深山之中、與木石居、與鹿豕遊、其所以異深山之野人者幾希、及其聞一善言、見一善行、若決江河沛然、莫之能禦也。

孟子は言う。
「舜の庶民時代、彼は田舎の深い山中で暮らしていた。木石の間に寝て、鹿やイノシシと戯れる毎日で、その姿は山中の野人と大して変わるところがなかった。しかし彼は一つよい言葉を聞き、一つよい行いを見たならば、長江や黄河が決壊するような怒涛の勢いで自分もそれを行なったのだ。それを止めることなど、何ものにもできなかった。」

公孫丑章句上、八のリプライズというべき章。舜は「心の中の仁義の道に従って行動した」(離婁章句下、二十)と言うから、心の中の規準に従って善であると考えたことをどしどし行なったのが舜であったというわけであろう。

しかしながら、孟子は社会的ルールである礼に応じた進退を人は必ず行なわなければならないとも主張する。「礼でなければ何も行なわない」(同、二十九)のである。だから、解決できる見込みもないのに争いの仲裁に入ったり、または相手が聞かざるをえない立場に自分がいない限りルール違反の輩に注意したりするのは決して良い行動とはいえないという結論となる。実際儒家の己を正しくすることだけに終始する消極性は、墨家の批判するところであった。孟子はしきりに舜の積極性を顕彰するが、一方で礼を学ぶことによる制御された行動を強く勧めることによって、心の衝動の赴くままに善に突き進むことを批判する言動も行なっている。粗っぽくいえば、その両面的な主張が後世になって朱子学と陽明学のスタンスの違いにつながっていくのであろう。


(2006.03.16)



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