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萬章章句下






孟子謂萬章曰、一郷之善士、斯友一郷之善士、一國之善士、斯友一國之善士、天下之善士、斯友天下之善士、以友天下之善士爲未足、又尚論古之人、頌其詩、讀其書、不知其人、可乎、是以論其世也、是尚友也。

孟子が萬章に語って言った、
「一郷里にいるよき士は、その郷里にいる同じよき士を友とするだろう。一国にいるよき士は、その国にいるよき士を友とするだろう。天下にいるよき士は、同じ天下にいる同じよき士を友とするだろう。だが、天下のよき士を友としても、まだ不足に感じるならばどうするか。そのときは、いにしえの人をさかのぼって論じるのだ。だがその人の作った詩を吟じて、その人の書いた著作を読んだとしても、その人についてよく知らないままでよいのだろうか?だから、その人が生きた時代について論じるのだ。これが、いにしえの人とさかのぼって友となることなのだ。」

★故事成句★
「尚友」(しょうゆう)(時代をさかのぼった友。昔の人についてよく知ることによって、その人と友となること。)

本章は、孟子が友人関係について語る、数少ない積極的な言葉である。だが萬章章句を通じて、孟子は「礼」の秩序のわく内で友人関係を論じてきた。本章句下、三で最高の友人関係として出したのは、堯と舜であった。君主が天下の富を分かち合うまでにへりくだって相手を求めるところに、「人徳を友とする」最高の例を見出そうとする。それはそうかもしれないが、天下の富を共有するとはあまりにも大仰過ぎる友達付き合いではないか。また本章句下、七では子思が魯公の思い込みをすげなく否定した例を出して、君主と士は礼儀上の関係であってたやすく友人関係にはなれないことを指摘した。常に例に従って行動し、社会の指導階級としてプライドを持つ君子は、疎遠な他人とそう簡単に気安い仲になることは許されないのであろう。

各国周遊時代の孔子に、このようなエピソードが伝えられている。孔子はもはや老いて政治を見ようともしない衛の霊公の元をまたも去って、晋の実力者の趙簡子(ちょうかんし)のところに行こうと決意した。だが、黄河にまで至ったときに趙簡子が大夫の竇鳴犢(とうめいとく)と舜華(しゅんか)を殺したことを聞いて、「ああ水は美しく、広大だ!余がこの川を渡らないのも天命なのか!」と嘆息したという。子貢がその言葉の意味を聞くと、孔子は「竇鳴犢と舜華は、晋の賢大夫。君子は同類を損なうことを、忌み嫌うのだ」と言ったという。そして一曲を作って、二人の死を悲しんだという(『史記』孔子世家より)。

この孔子のエピソードからは、彼の「天下のよき士を友としたい」という思いがよく伝わってくる。キケロも力説したように、人間はもう一人の自分を求めるかのように、共感できるよき友人を求めてやまない心がきっとあるに違いない。しかし孟子は本章で、いにしえの人をさかのぼって「尚友」とすることに言及する。彼の「尚友」とは誰のことなのかはっきり言っていないが、それは当然、私淑する孔子であるに違いない(離婁章句下、二十三)。本章の言葉から、孟子が同時代に共感できる友人を見出せない孤独な本音を嗅ぎ取るのは深読みのしすぎであろうか?孟子は直接の師の名前も伝わっていないし、共に学んだ学友がいたのかどうかもよくわからない。弟子は多くいたようであるが、彼らが後世活躍したという記録はない。戦国諸国を渡り歩いた大人物であったのは間違いないが、その人となりは論争に長けながらもEI(エモーショナル・インテリジェンス)に多少難ある人物だったのかもしれない。


(2006.02.15)



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