告子章句上
十九
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孟子曰、五穀者種之美者也、苟爲不熟、不如荑稗、夫仁亦在乎熟之而已矣。
孟子は言う。
「五穀は、種もみの中でも最も有益なものだ。しかしもし実らなければ、荑(いぬびえ。くさかんむり+夷。稗の仲間の雑草)とか稗(ひえ)とかにも劣る。仁もまたそうだ。実らせることを目指すのみ。」
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本章と類似の『論語』の格言として、「苗にして秀でざるもの、あるかな。秀でても実らざるもの、あるかな」(子罕篇)がある。『孟子』のバージョンは、実らせるべきものを「仁」だと定義している。
「五穀」とは春秋の五覇といっしょで、有用な穀物を五つ列挙しただけのことで、何を五穀に数えるかは諸説あって一致しない。だがおそらく孟子の戦国時代には、コムギは入らないはずだ。コムギは中東で改良された穀物で、中国で普及するのは漢代以降となる。当時の華北で重要な穀物といえば、オオムギとキビであろう。長江流域のコメが華北でも大量に消費されるようになるのは、隋朝に大運河が作られて以降のことである。
実際には、ムギやコメ、ジャガイモ、トウモロコシといった有用な穀物も、長い年月をかけて雑草から選抜して品種改良されたものだ。気の遠くなるような長い期間に人間の「偽」(つくりもの)が入って矯正されているのである。決して主体的決意さえあれば実るというものではない。