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盡心章句下



十一




孟子曰、好名之人、能讓千乘之國、苟非其人、箪食豆羹見於色。

孟子は言う。
「名を惜しむ人間は、戦車一千を抱える大国でも他人に譲ることをするだろう。しかしそういった人間でなければ、箪(たん。竹の箱)の飯や豆(とう。台付きの汁椀)のスープを失うことですら、顔色を変えるだろう。」

富貴に心を動かされない君子のありかたを再説した章であって、物に執着する人間とはほんのわずかな財産でも失うことを惜しんで顔色に出るものだと言う。

しかし楊朱(学派)は、儒家のような名誉を惜しんでやせ我慢をする心を嘲笑する。それは人間の本性ではないと言うのである。名誉を恃んで戦車一千を抱える大国を手放したとしても、本当に後世まで続く名声が得られるのだろうか?いや、おそらくそんな名声などは、あっという間に歴史の中に埋もれて忘れ去られるに違いない。楊朱(学派)の主張は、歴史を洞察したならば非常に合理的な主張なのである。しかし人間の社会というものは、何か自分の生を越えたより高いものに献身する不合理な衝動があって前に進んでいくものであるに違いない。大げさな歴史哲学など出す必要はない。たとえば処理に困った粗大ゴミなどをその辺の道端にこっそり捨てても、おそらく取り締まることなどできはしない。だから、処理のための出費を節約するためには粗大ゴミを山野や路上に投棄することは合理的である。しかしそれを全ての者が行い始めたら、国中の山野といい道路といいゴミの山となるだろう。(最近かなり怪しくなってきているが、)まだわが国がそこまでいっていないのは、何か不合理な心性がおおむね未然に止めているのだろう。このようなフリーライダー free-rider の問題が爆発することを現状で何とか防いでいるのは、決して政府ではない。社会の「不合理な」公共心である。そういった公共心を上から人為的に育成することは、おそらく不可能であろう。


(2006.04.04)



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