『大学或問』伝五章の三~敬とともに格物窮理せよ~
出典:国立国会図書館デジタルコレクション『四書集注大全』(明胡廣等奉敕撰、鵜飼信之點、附江村宗□撰、秋田屋平左衞門刊、萬治二年)より作成。 〇各ページの副題は、内容に応じてサイト作成者が追加した。 〇読み下しの句読点は、各問答の中途は読点、末尾は句点で統一した。 〇送り仮名は、原文の訓点から現代日本語に合わせて一部を変更し、かつ新かなづかいに変えた。 |
《読み下し》 又曰く、格物窮理は、但だ誠意を立てて以て之を格(いた)す、其の遅速は則ち人の明暗に在るのみ。 又曰く、道に入るは敬に如くは莫し、未だ能く知を致して敬に在らざる者なし。 又曰く、涵養は須らく敬を用うべし、進學は則ち知を致すに在り。 又曰く、知を致すは養う所に在り、知を養うは欲寡きに過ぎたるは莫し。 又曰く、物を格すは、道に適(ゆ)くの始なり、思いて物を格さんことを欲すれば、則ち固(まこと)に已に道に近し、是れ何ぞや、其の心を收めて放たざるを以てなり。 此の五條は、又本原を涵養するの功は、格物致知の本と爲す所以を言うなり、凡そ程子の説爲る者、此の如くなるに過ぎず、其の格物致知の傳に於て詳なり、今其の義理を尋ねるに旣に疑う可きこと無し、其の字義を考うるに亦皆據(ところ)有り、他書を以て之を論ずるに、則ち文言に所謂(いわゆる)學聚問辯(注1)、中庸に所謂善を明にし善を擇ぶ(注2)、孟子に所謂性を知り天を知る(注3)は、又皆固く守り力め行うの先在りて、而(しこう)して以て夫の大學始敎の功此に在ること有りと爲すことを験(たしか)む可し、愚嘗て反覆して之を考え、以て其の必ず然ることを信ずること有り、是を以て竊(ひそか)に其の意を取りて、以て傳文の闕を補う、然らずんば、則ち又安んぞ敢て不韙(ふい)(注4)の罪を犯し、無證の言を爲して、以て自ら聖經賢傳の間に託せんや。
(注1)周易文言、乾「君子は學以て之に聚(あつ)め、問以て之を辯(わか)ち、寬以て之に居り、仁以て之を行う」より。文言は周易(易経)の経本文に附けられた伝である十翼の一つで、乾・坤の二卦についてその道徳的意義を解説した文章。
(注2)中庸「身を誠にするに道有り、善に明らかならざれば、身に誠ならず」「之を誠にする者は、善を擇びて固く之を執る者なり」より。 (注3)孟子盡心章句上「其の心を盡す者は、其の性を知るなり。其の性を知らば、則ち天を知るなり。其の心を存し、其の性を養うは、天に事(つこ)うる所以なり」より。 (注4)不韙は、不義不正の意。春秋左氏伝より。 |
《要約》
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