不苟篇第三(2)

By | 2015年7月5日
君たちのあるべき姿。穏やかで交際しやすいが、馴れて侮ることは難しい人間であれ。用心深いので行動を自重させることはたやすいが、力での脅しには屈し難い人間であれ。災難に遇うことは恐れるが、義のために死ぬことを避けない人間であれ。利益があることを喜ぶが、不善は決してやらない人間であれ。交際は親しむがへつらわず、弁論はきちんと行うが無用の装飾は行わず、ひろびろとした心を持ち、世間の俗人たちとは違う様子であれ。

君たちは、才能がある者もまたよき人であり、才能がない者もまたよき人であれ。だが小人は、才能がある者もまた醜く、才能がない者もまた醜い。君たちの中で才能がある者は、寛容で素直な心を持って人を教え導きなさい。才能がない者は、恭敬で謙遜する心を持って人に謹んで従いなさい。だが才能のある小人は、傲慢でかたよった心を持って人に驕って無茶な振る舞いをなし、才能のない小人は、嫉妬と恨み誹りの心を持って人を陥れようと企む。ゆえに、「君子に才能があれば人はこれに学ぶことを栄誉と思い、君子に才能がなければ人はこれに教えることを楽しみとする。だが小人に才能があれば人はこれに学ぶことを賤しみ、小人に才能がなければ人はこれに教えることを恥じる」と言うのである。これが、君たちがなるべき君子と、君たちが避けるべき小人を分けることなのだ。

君たちは、心おおらかでなければならないが、怠慢に陥ってはいけない。清廉潔白な心を持たなければならないが、それで他人を責め潰してはならない。言うべきことはしっかり弁論しなければならないが、言い争ってはならない。明察を貴ばなければならないが、知に過ぎて攻撃的になってはならない。人に流されない独立した心を持たなければならないが、自分の正義で他人を打ち負かしてはならない。堅強な心を持たなければならないが、粗暴と取り違えてはならない。柔らかく謙遜する心を持たなければならないが、他人に追随して流されてはならない。心は常に恭敬謹慎して慎重でなければならないが、それで心の寛容さを失ってはならない。以上のような姿を見事に成し得ているならば、これを礼義の極まった姿と言うことができるだろう。『詩経』に、この言葉がある。:

温(おだや)かで恭(つつし)む人は
これ、徳の基(もとい)
(大雅、抑より)

君たちは、「徳の基」とみなされる人間となることを目指しなさい。

《原文・読み下し》
君子は知(まじわ)り(注1)易くして狎(な)れ難く、懼れしめ易くして脅し難し。患を畏れて而(しか)も義死を避けず、利を欲して而も非とする所を爲さず。交は親にして而も比せず、言は辯にして而も辭せず。蕩蕩乎(とうとうこ)として其れ以て世に殊(こと)なること有るなり。
君子は能あるも亦好く、不能なるも亦好し。小人は能あるも亦醜く、不能なるも亦醜し。君子は能あれば則ち寬容・易直にして以て人を開道し、不能なれば則ち恭敬・繜絀(そんちゅつ)にして以て人に畏事す。小人は能あれば則ち倨傲(きょごう)・僻違(へきい)にして以て人に驕溢(きょういつ)し、不能なれば則ち妬嫉(としつ)・怨誹(えんぴ)して以て人を傾覆す。故に曰く、君子は能あれば則ち人焉(これ)に學ぶを榮として、不能なれば則ち人之に告ぐるを樂しむ。小人は能あれば則ち人焉に學ぶを賤しみ、不能なれば則ち人之に告ぐるを羞(は)ず。是れ君子・小人の分なり。
君子は寬にして而も僈(まん)ならず、廉にして而も劌(けい)ならず、辯にして而も爭わず、察にして而も激ならず、寡立(かりつ)(注2)にして而も勝ならず、堅强にして而も暴ならず、柔從にして而も流(りゅう)ならず、恭敬・謹愼にして而も容(よう)なり。夫れ是を之れ至文と謂う。詩に曰く、溫溫たる恭人、維(こ)れ(注3)德の基、とは、此を之れ謂うなり。


(注1)『韓詩外伝』の引用では「知」字は「和」字となっている。増注・王念孫は『韓詩外伝』を是として「和」字が正しいとするが、集解の兪樾は「知」は「接」なり、と言い、「知」に交接の義がある用例があることを指摘する。兪樾説に従う。
(注2)集解の王念孫は、「寡立」は「直立」の誤、と言う。栄辱篇には「直立して而も知見(ら)れざる者は勝なり」の句がある。しかし新釈の藤井専英氏は「寡立」を孤高の意、孤高で人に屈しないこと、と注して字を改めない。藤井説に従う。
(注3)宋本を底本とする新釈は、「維」字を「惟」字とする。

「君子は周して比せず、小人は比して周せず」(論語、為政篇)
「志士仁人は生を求めて以て仁を害すること無し、身を殺して以て仁を成すこと有り」(同、衛霊公篇)
「君子は坦(たいらか)に蕩蕩たり、小人は長(とこしなえ)に戚戚たり」(同、述而篇)
「温にして厲(はげ)し、威にして猛ならず、恭しくして安し。」(同)

上の荀子のいずれの言葉も、これら『論語』の格言から外れたものではない。

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