法行篇第三十(2)

By | 2016年2月13日
曾子が言った、「一緒に遊んでいながら、相手から愛されない。それは、きっと自分の仁愛が足りないからだ。交友しながら、相手から尊敬されない。それは、きっと自分に長所がないからだ。財貨を取り扱いながら、相手から信用されない。それは、きっと自分に信用を重んずる心が足りないからだ。これら三つの欠点が自分にあるときには、どうして他人を怨むことができるだろうか?他人を怨む者は、やがて窮迫する。天を怨む者は、見識が足りない。自分のせいで失敗しながら、失敗の原因を他人に求めるのは、なんとも真の原因から遠ざかることだ」と。


南郭恵子(なんかくけいし)(注1)が、子貢に質問した、
南郭恵子「あなたの先生(つまり孔子)の門人は、どうしてあんなにも雑多な人間が集まっているのでしょうか?」
子貢「君子たるもの、己の身を正しくして人が来ることを待つものです。来ることを欲する者は拒まず、去ることを欲する者は止めません(注2)。また、良医の門には病人が多く来たり、檃栝(いんかつ。木を矯める器具)の側には曲がった木が多くあるものです。それゆえに、雑多なのです。」


孔子が言われた、「己の君主によく仕えることができないのに、己の家臣がよく使われることを求めるのは、恕(じょ)(注3)とは言えない。己の親によく尽くすことができないのに、己の子がよく孝行することを求めるのは、恕とはいえない。己の兄をよく敬愛することができないのに、己の弟がよく命令に従うことを求めるのは、恕とはいえない。士たるもの、この三恕を明らかに知るならば、これによって己の身をよく正すことができるだろう」と。


孔子が言われた、「君子には三思があって、これらを思わなければならない。年少のときに学ばなければ、年長となって能力が得られない。年老いて後進に教えなければ、死後に思い出されることがない。富んでいるときに施さなければ、窮迫したときに与えられることがない。このゆえに君子は、年少のときには年長となったときのことを思って学び、年老いたときには死後のことを思って教え、富んでいるときには窮迫したときのことを思って施すのである」と。


(注1)楊注は、南郭恵子はその姓名未詳と言う。
(注2)『孟子』盡心章句にも、「往(さ)る者は追わず、来る者は距(こば)まず」の言葉がある。
(注3)「恕」は「夫子の道は、忠恕のみ」(論語里仁篇)という言葉があるように、孔子の倫理の基本を示す概念である。おおむね「仁」と重なった意味として解釈される。ここでは、他人を思いやる精神として用いられているようである。
《読み下し》
曾子曰く、同遊して愛せ見(ら)れざる者は、吾必ず不仁なればなり。交りて敬せ見れざる者は、吾必ず不長なればなり。財に臨みて信ぜ見れざる者は、吾必ず不信なればなり。三者身に在れば、曷(な)んぞ人を怨まん。人を怨む者は窮し、天を怨む者は識無し。之を己に失いて諸(これ)を人に反す、豈(あ)に亦迂ならずや、と。

(注4)南郭惠子(なんかくけいし)子貢に問うて曰く、夫子の門は何ぞ其れ雜なるや、と。子貢曰く、君子身を正しくして以て俟(ま)つ。來らんと欲する者は距(こば)まず、去らんと欲する者は止めず。且つ夫れ良醫(りょうい)の門には病人(へいじん)多く、檃栝(いんかつ)の側には枉木(おうぼく)多し。是を以て雜なり、と。

(注5)孔子の曰(のたま)わく、君子に三恕有り。君有るも事(つか)うること能わざるに、臣有りて其の使(し)せらるるを求むるは、恕に非ざるなり。親有るも報ゆること能わざるに、子有りて其の孝を求むるは、恕に非ざるなり。兄有るも敬すること能わざるに、弟有りて其の令を聽かんことを求むるは、恕に非ざるなり。士は此の三恕に明(あきら)かなれば、則ち以て身を端(ただ)す可し、と。

(注6)孔子の曰わく、君子に三思有りて、思わざる可からざるなり。少にして學ばざれば、長じて能無きなり。老にして敎えざれば、死して思わるること無きなり。有りて施せざれば、窮して與(あた)えらるること無きなり。是の故に君子は、少にして長を思えば則ち學び、老にして死を思えば則ち敎え、窮を思えば則ち施す、と。


(注4)説苑雑言篇に、類似の文が見える。雑言篇では東郭恵子に作る。
(注5)孔子家語三恕篇に、ほぼ同じ文がある。
(注6)同じく孔子家語三恕篇に、ほぼ同じ文がある。

法行篇は、以上である。末尾に置かれた三恕・三思のごとき同型の語句を複数列挙した格言は、論語季氏篇に類似のバリエーションが多数収録されている。こういった格言について貝塚茂樹氏は、「孔子の学園で、孔子のことばがしだいに教条化され、教訓を箇条書きにして暗記する学習方法がとられてきたあらわれである。孔子とその弟子たちとの人格的な接触から生まれる会話の生き生きした味はなくなってくる」と評している(貝塚訳注『論語』中公文庫)。

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